仙台高等裁判所秋田支部 昭和32年(う)66号 判決
所論は収賄罪の被害法益は公務員の職務の公正であるとの前提に立ち刑法第百九十七条第一項後段の請託とは公務員の職務の公正を害するおそれある不法の依頼要求であつて、正当な職務行為の依頼を受けて賄賂を収受するも何等職務の公正を害する危険がないから請託というをえず、従つて同条項後段の収賄罪を構成せずと主張するのであるが、同条項後段の請託とは公務員に対し一定の職務行為を行うことを依頼することであつて、その依頼が不正な職務行為の依頼であると正当な職務行為の依頼であるとに関係なく荀くも公務員が請託を受けて賄賂を収受した事実ある以上同条項後段の収賄罪は成立する。蓋し公務員の職務の公正を維持するためには正当な職務行為に対しても賄賂による買収を許容しえないことは明らかだからである。しかして原判決は被告人が稲葉猪太郎より前記第二十六号議案の上程並に可決に関し尽力されたい旨の請託を受けて諒承しこれが報酬として供与するものであることを知りながら二回に亘り合計金九万円を収受した事実を認定しておることは前段説示のとおりで右はその挙示する証拠により確認しうるのであるから原審がこれを同条項後段に問擬したのは正当であつて何等違法の廉は存しない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小田倉勝衛 裁判官 三浦克己)